あなたが私にできる事
「さっみ〜。ってか耳いて〜。神崎さん、大丈夫?」
「無理。顔凍った。」
真冬に原付なんて乗るものじゃない。
二人して真っ赤な鼻をして、顔を強ばらせていた。
手がかじかんでメットのベルトも外せない。
悪戦苦闘していると山口くんが助けてくれた。
「やっべ。全然力入らない。ちょい顔上げて?」
背の高い彼が私の顔を覗き込むようにした。
それは丁度キスをするような体勢だ。
沈黙が二人を包む。
「…っ!」
「あっ。外れた。」
私が何か言葉を発しようとした瞬間だった。
少しほっとする。
着いたところはファミレスだ。
それもさっきまで和希といたファミレス。
階段の上にあるその店を見上げながら自嘲的に笑う。
「神崎さん?どうした?早く入ろう。」