あなたが私にできる事
「あれー?ヤマ一人で座ってるのかと思ってたぁ。誰だっけ?その子。名前忘れちゃった。」
最悪の目覚めだ。
バスはすでに目的地に着いていた。
この声はさっきの化粧の濃い女の声だろう。
面倒なことは避けたいから寝たふりを続けた。
「ねぇ、ヤマも私たちと一緒に回ろうよぉ。」
彼女の甘えた声が耳につく。
これが美紀の声だったら可愛く聞こえるのに。
「ごめんごめん。俺、松本たちと回るから。」
渋々とバスを降りていく彼女たちの気配。
ざわざわとした空気が薄れていく。
そろそろ起きようとした時だった。
「バレバレだよ。寝たふり。」
席に座ったままの山口くんが私の肩を自分の肩で押す。
「女子ってウザイ。」
それだけ言って立ち上がる。
「おはよー。エリザベス。もうみんな行っちゃったよ?」
「それを待ってたの。じゃーね。」
一人でさっさとバスを降りて水族館へ向かった。