あなたが私にできる事
水槽の中には大きい亀と小さい亀がいた。
2匹とも外に出たい様で一生懸命水槽を掻いている。
時折聞こえる“キー”という水槽の擦れる音が切なかった。
「親子?」
「違うよ。昔からいる奴と今年買った奴。」
「ふ~ん。」
ただ黙って亀を見つめる。
山口くんは何も言わずにゲームを始めた美紀と恭ちゃんの元へ行った。
これ以上ないくらい首を伸ばし、進めない前へと向かおうとする2匹の亀。
ここから出してもらえたところでこの子たちが戻るのは池の中だ。
人に飼われるというのはどんな気分なのだろう。
安全な居場所と約束された餌。
一生望めない自由。
「逃げちゃぇ…。」
亀を見つめながら囁いた。
「ん?なんか言った?」
山口くんの声で現実に引き戻された。
「何でもない。
あれ?二人は?」
いつの間にか美紀と恭ちゃんが消えている。
「買い出しだって。今日も飲み会開きましょーって。神崎さん、亀に夢中になり過ぎ。」
そう言う彼もパソコンの画面に釘付けだ。