あなたが私にできる事
そっか。
この人は本気で山口くんのことが好きなんだ。
今にも声を上げて泣き出してしまいそうな表情で私を睨む阿部さんが羨ましくなる。
私にもそんな人がいれば状況は違ったかもしれないのに。
歯を食いしばり鼻で荒く息をする彼女の手をそっと取る。
私の制服のリボンを掴んでいたその手はとても冷たく、微かに震えていた。
「離して。」
自分で驚くほど優しい声が出た。
阿部さんは何も言わない。
「ごめん。もう山口くんと関わらない。同じクラスだから完全に無視することはできないけど、必要ない時以外は絶対に関わらない。」
彼女の目を見つめた。
「あんた、何言ってんの?」
阿部さんの目から涙が筋を作って落ちていく。
「それで安心するんでしょ?私は、それで構わないから。」
気持ちはひどく落ち着いていた。
「ごめんね。」
最後にそう呟くと唇を噛みしめて涙を流す阿部さんを残してトイレを後にした。