神楽幻想奇話〜鵺の巻〜
サラリーマン風の男は「すみません。」と呟くと、透の隣に腰を下ろしてハンカチで汗を拭った。

透はなんとなく、その行動を気にしていたが、至って普通のサラリーマンのようだ。警戒する必要は無いと判断した。

(さて、座っていても仕方がない、とりあえず寝床を探すとしよう。)

透は立ち上がると、あまり人気の無い場所を探して歩き始めた。

「今は逢魔が時…。お気をつけて、神楽さん。」

背後から、声をかけられて透は振り返った。
間違いなくあのサラリーマンの声だった!


「なぜ俺の名を…!?」


しかし、今まで居たはずのサラリーマンの姿はそこにはなかった!


透は拳を握りしめ、ジットリとした額の冷や汗を拭った。


(今の男は妖だったのか?それとも別の者か?
…敵に対する時の妖の警戒は無かった。
敵意ある者ではないようだが。)


周囲を見渡した後、透は再び振り返ると、夕闇迫る道を歩き始めた。
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