この空の彼方
◆壱
幼少期
気がつけば、母に倣って神々を祭った段に手を合わせていた。
白の衣を身につけ、正座をし、黙って頭を垂れる。
外の世界を知らない灯世にはこれがすべてだった。
岩の洞窟の中は、二本しか灯っていないろうそくが揺れる度、暗くなったり明るくなったりを繰り返す。
ふと、斜め前に座っていた母の八重(ヤエ)が立ち上がった。
灯世も立ち上がる。
今朝の祈祷はこれで終了だ。
まだ、灯世には時間を頭の隅で数えられる技能はついていないので、八重のあとをついているだけだ。
物心ついたときには、もうこの祈祷を毎朝欠かさずにしていた。
もう灯世はもう10歳、秋が着たら11歳になる。
今までずっとこの生活に疑問を抱いたことはなく、屋敷を出た通りを同い年くらいの子供達が駆け回っていても不思議とうらやましく思ったもとはない。
それほど、守護一族としての生活が身体に染み込んでいたのだ。