この空の彼方
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何故か、最近私の周りでおかしな事が起こってばかりな気がする。
「あっぶねぇ…。」
千歳が芦多の着物の袖をしっかり掴んで引き寄せながら、足元で砕け散った花瓶を睨んだ。
「おい、芦多、怪我は?」
「大丈夫だ。
お前こそ、頬に傷が。」
「ん?
あぁ。」
千歳は乱暴に袖で血を拭った。
飛んだ破片で頬を切ったらしく、薄い赤い線が出来ている。
「こんくらい大丈夫だ。」
「…。」
この数日で、4件目だ。
芦多の沓の鼻緒が切れていたり。
弓道の練習のとき、矢がささくれていて手を切りかけたり。
馬に乗ったとき、いきなり腹帯が切れたり。
そして今回、やぐら付近から花瓶が落ちてきた。
何かと芦多を傷つけようとしているかのような事故が起こる。
とうとう、いつも芦多と行動を共にしている千歳に被害が出た。
「ほら、行くぞ。」
千歳に急かされ、芦多は剣術の練習のため、広場に出た。
既に、政隆が太刀を振り回していた。
「おう、千歳。
久し振りだな。」
千歳に気付いた政隆は手を止めて二人に近づいてきた。
「芦多に政隆を取られてからというもの、会っていないからな。」
…何故私が睨まれる。
芦多は思い切り千歳の足を踏みつけた。
その二人の水面下のやり取りを知ってか知らずか、政隆は朗らかに笑った。