この空の彼方
「今度、琿坐(ゴンザ)に頼んで、千歳を貸してもらおう。
わしはわしで鍛えてやるから覚悟しておけ。」



それを聞いて、千歳は嬉しそうに笑った。



「約束だぞ。」


「なにが約束だ。
この最高の師匠が気に食わんのか。」


「げっ、琿坐じゃん。」



千歳はビクリと肩を震わせた。



恐々といった感じで振り向く千歳。



千歳の師匠の琿坐は坊主頭をガリガリと掻いた。



「ほう、千歳がわしを気にいらなんだとはな。」


「誰も気に食わないとは言ってないだろ?」



呆れて千歳は白目を剥く。



「ったく、琿坐は冗談なのか本気なのかわかんないからやだ。」



何やら政隆と仲良く話し始めた琿坐に背を向け、千歳はやれやれと首を振る。



こんなことを琿坐に聞かれでもしたら。



芦多は小さく笑った。



何だかんだ言って、実は千歳は琿坐が大好きなのだ。



勿論、琿坐も。



ちなみに、爪鷹は琿坐に、耶粗は政隆に弟子入りしている。



「おい、そこのちびっこ。」


「だあぁっ!」



呼ばれた瞬間、千歳が牙を剥いて振り返った。



「ちびっこって呼ぶなって言ってんだろハゲ!」


「何がハゲだ!」


「じゃあヒゲ!」


「ぬうっ。」



琿坐は自慢のちょびヒゲを撫でた。



「お前は、紳士のたしなみが理解できんのか。」


「何がたしなみだ。
琿坐がやっているとむさ苦しいんだよ。」



そのままわあわあと走り回る二人を避け、芦多は政隆の横に並んだ。




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