この空の彼方
「中に入ろう。
八重様はこれから辰太郎様に謁見されるどだろうから、会えるのはもうしばらくあとだな。」


「そうですね。」



少し、気分がへこんだ。



「まぁ、夜はゆっくりできるだろう。
今夜は親子水入らずで。」


「はい。
…そうなるといいですね。」



様子からすると、どうやら難しそうだが。



「灯世?」



芦多は心配そうに灯世を覗き込んだ。



「少し、心配になってきました。」


「何が?」


「なんだか、しばらく会えなさそうなので。」


「…確かに。
私からも機会があれば二人が会えるように取りはからってみる。」


「ありがとうございます。」



芦多の力では難しいだろうことも、やろうと言いだしてくれるその優しさが嬉しかった。



「さあ、元気を出せ。」


「はい。」



少しの沈黙の後、芦多は口を開いた。



「もし、時間があれば…。」


「はい?」


「今晩、もし時間があれば、私を紹介してはもらえないだろうか。」



紹介?



灯世は立ち止まって芦多を見上げた。



「私はまだ八重様と直接話したことがないんだ。」


「わかりました。
母様もきっと喜びます。」



私に同年代の友達が出来たら喜ぶだろうな。



なにしろ、灯世にはそもそも友達がいなかったのだから。





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