この空の彼方
灯世はハーッと悴んだ手に息を吹きかけた。



それに気付いた芦多が灯世に問う。



「寒いか?」


「当たり前ですよ、冬ですから。」



当たり前のことをとても心配そうに訊く芦多がおもしろくて、灯世はクスクス笑った。



「そ、そうか。」



回廊から中に入っていくと、なにやらいい匂いが漂っていた。



「なんでしょうか?」


「きっと、夜会の料理の匂いだろう。
八重様も疲れているのに大変だな。」



芦多は眉をしかめた。



「…今夜はきっと…。」



その後は灯世にもわかった。



八重様は大忙しだろうな。



つまり、灯世と過ごす時間がない。



姿を見れただけでありがたいと思うべきなのだろうか。



灯世が視線を床に落としたとき、誰かが背中に覆いかぶさってきた。



「灯~世!」


「千歳馬鹿野郎!」



芦多が吠えて千歳に掴みかかる。



「うわっ、ちょっ、芦多!
お前が馬鹿野郎だよ!」



バランスを失った千歳につられて、灯世は尻餅をつく。



なんとか千歳は身体を捻って、灯世の上に墜落するのを防いだ。



「あのさぁ、芦多くん。」



その後、芦多にくどくどと説教をかました千歳だった。
























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