この空の彼方



ーーーー……。



「芦多、帰って来い。」



まだ朝靄がかかっている夜明け、芦多は極秘に発った。



政隆が、赤い目を芦多に向ける。



「待ってるぞ、芦多。」


「ああ。」



政隆は、わなわなと唇を震わせた。



「行け。」



さっと背を向け、政隆は言った。



「元気で、政隆。」



背中が震えていたのは、見ぬふりをする。



千歳が馬を引いてやってきた。



「いい馬だとよ。
俊足だそうだ。」


「そうか。
それはありがたいな。」



千歳は手綱を押し付けるように渡した。



「死ぬな。」



隣に発った爪鷹が、芦多を真っ直ぐにみる。



「わかってる。
私もまだ死にたくはない。」


「お前が死にたくなくとも、向こうはお前を殺す。」



耶粗は、足元を睨みつけたまま、顔を上げない。




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