この空の彼方
「…こんな、最後に酷い。」



どうして、もっと早くに言ってはくれなかったのですか。



灯世は震える声で、芦多を恨む。



「断られるのが、怖かった。
避けられたら、どうしようかと、怖かった。」


「避けるわけないじゃないですか。
こんなに好きなのに、なんで今まで…。」


「この状況の後押しが大きい。」


灯世は芦多の腕の中で拗ねたように呟いた。



「その点では辰之助様に感謝します。」


「…。」



芦多は複雑そうだ。



「あの、くれぐれも身体に気を付けてくださいね。」


「灯世こそ。」


「……私は命の心配は必要ないです。」



灯世は芦多の胸に顔を押しあてた。



「早く帰ってきてくださいね。」


「ああ。」



芦多は言ったあと、胸が締め付けられたように苦しくなった。



確かに、灯世は芦多を待っているかもしれない。



だが、辰之助は違う。



芦多が発ったらすぐ、灯世を娶るだろう。


そして、灯世は人妻、しかも殿の奥方となるのだ。



そうなれば当然、子どもも出来て、ますます灯世は自分の思う通りに動けなくなる。



「……もう行く。」



灯世はいっそう強く芦多に抱きついた。



「灯世。」


「もう少しだけ!
これから、触れるどころか、顔さえ見れなくなってしまうのに…。」




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