この空の彼方
◆六
出陣
***
朝、灯世は軋む身体を励まして起き出した。
今日は出陣の日だ。
昨日、帰ってきたばかりなのに。
八重にろくに挨拶も出来ない。
「灯世様、お身体は…。」
腰をさする灯世を気遣って、いのが着替えを手伝いにきた。
「ありがとう、大丈夫よ。」
微笑んで見せたが、いのは手伝うと言って下がらなかった。
「あまり無理をなさっては、後々お身体に障ります。
…それに、お手伝いできるのは今日までなんですもの。」
灯世は顔を上げた。
いのはハの字に眉を下げている。
「お早いお帰りを願っていますよ?」
「いの、まだ私は死ぬわけにはいかないの。
精一杯戦って帰ってくるから。」
いのは何度も頷いた。
灯世はいのに着物を着せかけてもらいながら小さいため息をついた。
私はまだ最前線には出ないけれど…芦多様は。
あの方は一番危険なところに行かれる。
自分のことより芦多が心配でたまらなかった。
もちろん、戦闘部隊である千歳と耶粗も。
キュッと帯を締め終えたとき、外から声がかかった。
「灯世殿、いらっしゃいますかな?」
「政隆様?」
腰を浮かせたいのを制し、灯世は立ち上がった。
「どうぞ?」
少し間を置いて、政隆が障子を開ける。
「どうかなさいましたか?」
「少し、お話がしたくなりましてな。」
そう言って、政隆は人の良い笑みを浮かべた。