black & red

†冷たい手†


 イギリスでも有名な観光地で、毎日沢山の人が、行き交うこの街。

 ピカデリー・サーカス。

 メンイ通りの両側は、世界で名の通った一流ブランドの店が、これ見よがしに連なっている。

そんなメンイ通りの端に、大きなトランクを持ったエリザが立っていた。

 ポカンと口を開けて。

「どうしよう…。」

 気の抜けた声が、曇った空に消える。

 正直…行く宛てなんて、全く頭に無かった。

 それどころか、住む場所すら決まって無いまま、故郷を飛び出してしまったエリザ。

(どうしよう…何も考えてなかったわ。都心に出れば何とかなると思ってた。)

自分の無鉄砲さと無計画さに、思わず溜め息が出る。

それでも一人で頑張る事を決めたんだから、やるしかない。

だったら最初は―…

「住む場所を探さなきゃねっ!」

決意したら即行動よ!と一人ムンッと拳を握り、身体に力を入れる。

 そして人が行き交う中、重たいトランクを両手に持ち、エリザは街中を歩き始めた。





 そして歩き始めて…五時間後。




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