black & red
お互いに視線が絡み合う。
(わっ…もうダメっ!)
不意に高まる動機と鼓動に耐えきれず、エリザは男から視線を反らした。
そんなエリザを見つめる男の瞳はどこか切なげで…瞳の奥底に炎が燻っているかの様に熱い。
そして困ったように瞳を伏せるエリザを前に唇を開いた。
「どこか怪我をしているのか?」
不安げな低い声。
(え…怪我?)
不安げな声に思わず顔を上げれば、あの恐ろしく綺麗な顔が近くに迫って来て、思わず身動ぎした。
じっとエリザの瞳を覗き込む。
「あっ、あの?」
「君は怪我をしている。」
「いえ、どこも怪我はー…」
ハッキリ言い切る言葉にしどろもどろしながらも、それと同時に浮かび上がるのは、夕方の出来事。
(あれ…?でも、もしかしたら、あの時に―…)
「尻もちした時に…って、キャア!?」
手のひらを襲う強い痛みと冷たい感覚。
気付けば突然グイッと手を握られ、そのままドアの中に引っ張り入れられてしまった。
あまりに突然過ぎて空いた口が塞がらない。
(えっ…えっ、何!?)
「あの、すみませ…ちょっと!!」
外観とは違ってホコリっぽい室内に切迫した声が響く。
男はそんな声を無視して、エリザを一瞥すると握る手に力を入れながら、凄まじい速さで廊下を歩く。
(やっ、冷たい!!)
握られた手から伝わる、氷の様に冷たい感触に顔をしかめる。
そして小走りに薄暗い部屋を奥へと進んだ。