万象のいた森
「はいっ?」
その人は怪訝な顔をした。
「さっき、いっしょに食べようって焼いたんです」
そう言っても、決して納得していなかった。
あたりには沈鬱な空気が充満していた。
ユキがホットケーキを置いて帰ろうと思ったとき、表で人の気配がし、自転車のスタンドを立てる音が聞こえてきた。
振り向くと、風よけの金木犀の陰からノーベルが見えた。
ホッとしたユキとはうらはらに、頼りのノーベルはユキの顔をみとめながら、ユキの横を通り抜けた。
「母ちゃん、ほら、ポカリ」
そう言って、コンビニの袋を放り投げた。
そして、呆然と立ち尽くすユキの手を取って、連れ去るように表に出た。