万象のいた森
2
そこはノーベルのじいちゃんが造ったヒノキの森。
規則正しく並んだヒノキはじいちゃんの生きた証。
不要な枝を落として真っ直ぐに伸びた幹は父ちゃんの生きた証。
大きく伸ばした枝々は光を遮断して、その森を暗くする。
ノーベルがどうしてヒノキの森を思い出したのか、わからない。
長いこと来ていなかったヒノキの森に、ノーベルが導かれるようにやって来たのは、一週間前のことだった。
そして今、ノーベルに手を引かれ、ユキもそのヒノキの森に足を踏み入れた。
谷底から上ってくる湿った空気が肌に気持ちいい。
ユキは大きく深呼吸した。