万象のいた森
道路脇の小川に背を向け、ふたり並んでガードレールに腰掛けた。
「それで、ノーベル。どうして黒糖飴を盗もうとしたの?」
盗むって単語にノーベルは目をそらした。
何か言いたそうに口を開いたが、言葉がでてこなかった。
そして、みるみる目に涙をためていった。
決して悪い子じゃない。
「・・弟が黒糖飴を食べたいって泣くんだ」
ユキはハッとさせられた。
想像もしない言葉だった。
「お母さんは?」
「病気で寝てる」
「・・そうなんだ。でも、万引きはダメだよ」
「・・うん、わかってる」
「もしもよ、困って困って、どうしようもない時には、おねえちゃんに言ってみて」
「うん」
ノーベルはやっと明るい顔に戻り、大きく頷いた。