万象のいた森
卵と牛乳をかき混ぜ、ホットケーキの素を入れて、さらにかき混ぜる。
あっためたフライパンにそれを丸く垂らすと、いい匂いがしてきた。
ノーベルは段差のあるタタミの間に腰掛け、じっと見ている。
「たまらん匂いだなぁ」
振り向くと勝手口のドアを開けたのはおじいちゃんだった。
「なんだ、ノーベル賞じゃねえか。何しに来た」
ユキは突然おじいちゃんが現れたことより、おじいちゃんがノーベルを知っていたことに驚いた。
しかも、おじいちゃんもノーベル賞って呼んでるし。
「おじいちゃん、ノーベル、知ってるの?」
「知ってるもなにも、近所でも評判の、アクトーだ」
「悪党?」
「いんや、悪童」
その時、ノーベルはおじいちゃんの脇の下をくぐりぬけ、外へ飛び出していた。
「待って、ノーベル。ホットケーキ焼けたよ」
止めるユキの言葉を振り切ってノーベルは逃げて行った。