千里ヶ崎の魔女と配信される化け物
かちゃん。

取っ手の金輪が音を立てる。

取り出されたのは、茶色い革表紙の、古い手帳だった。たくさんの付箋や、多種多様な栞。

僕に見せつけるように掲げてから、千里ヶ崎さんは「ふふっ」と微笑む。

香蘭さんとは真逆。人の精気を吸えば吸うほど妖艶に咲き誇る彼岸花のような毒々しく、鮮やかな笑みだった。

「どうしたのかな、皆川くん」

「え? ……なにがですか?」

「そんなに私を睨み付けて。私の顔になにかついているかな?」

「いえ、別に。そういうわけじゃないです。――それ、読まないんですか?」

「うん。これは『読む』ものとは違うからね」

読むものとは違う? 意味がわからない。本は、書物は、読まなければ意味がないのに。

意味がないのに。

読まなければ。

千里ヶ崎ミシェルが本を読まなければ、意味がないのに。

意味がないのに。

意味が、ないのに。

「皆川くん?」

と、また呼びかけられる。

ハッとした。

どういうわけか、なにかにひどく焦って、すごく汗を掻いているのだ。

握った掌にも、じっとりと滲んでいる。慌ててズボンで拭いた。

なんだろう。彼女の語る想像が、僕に不思議な圧力をかけているだろうか。それとも……。





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