千里ヶ崎の魔女と配信される化け物
ここへ読書に来ると、いつも途中から彼女の想像旅行に付き合わされる。

だからこの手の発言にも、だいぶ慣れたもんだった。

「あのですね、千里ヶ崎さん。機械が苦手な千里ヶ崎さんに根本的なことをお教えしますと、そもそもケータイは無生物なので、襲ってきたりしません」

「知っているよ、そんなこと。だが、絶対にないと言い切れるかな?」

「言い切れます」

「ちっちっちっ。皆川くん、今は想像の時間なのだよ。そこはNOではなく、YESと答えてしかるべきでしょう?」

どうやら、フライトの準備はとうにすんでいるらしい。

こうなったら、この書庫はこれから、未知の世界へ続く扉となってしまう。

扉を開くのは、千里ヶ崎さんの言葉だ。

「もしもだ。ケータイから突如、カニのような足が生え、あのパカパカと開閉する部分に牙が揃ったなら、それはもう化け物だろう」

「いや、むしろ化け物以外のなんなんですか」

「化け物と言わなかったら……未知の生物だ。あるいは未確認生物と呼びましょうか」

「もう化け物です、どっちみち」

千里ヶ崎さんの発想はユニークなので、冗談と本気の境目がどきどき危うい。
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