千里ヶ崎の魔女と配信される化け物
ソファーからむくりと起き上がった千里ヶ崎さんは、人差し指から順に、指を立てていく。

「ひとつ、化け物は人を襲ってこそ化け物である。ふたつ、化け物は狂暴だからこそ化け物である。みっつ、双方のいずれかが欠落したものは、化け物とは呼べない」

「千里ヶ崎さんの持論ですか」

「持論じゃないの。自論なのよ」

「?」

持論と……持論?

違いがわからない。

「まぁ、化け物の定義はいいのだよ。かつて、定義について小うるさいヤツと口論したこともあるけれど……とにかく、化け物の定義はそこまで追及しなくていい」

「だってそれは、千里ヶ崎さんが、」

「ともあれ。恐怖について言うならケータイのほうだ」

「はあ……」

遮られた。

この人は、「できるなら起き上がっていたくない」という面倒くさがり屋だ。。気だるげに、ドサリとソファーへ身を横たわらせ、また続けた。

「あれほど、多くの人々が手にし、携帯する代物なのだよ。それが化け物だった場合、とてもおもしろいことになるとは思わないかい?」

「少なくとも、おもしろいことにはならないと思います」

「ちっちっちっ」

と、また。千里ヶ崎さんは、舌打ちがうまい。とてもリズミカルなんだ。
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