時の雫 白銀の瞳
シャァァァァァ――


いつもより熱い温度のシャワーを、頭から浴びながら、体中を激しくこすりつける。


なんなのっ――!!

動悸は強く早くなる一方で、私は胸を抑えつけた。


なんなのっ!これ!

血で染まった自分の姿に驚いてから、どれぐらいの時間が経ったのだろう…


よく思い出してみよう、落ち着いて、落ち着いて…

自分に言い聞かしながら、鏡の中のもう一人の私を見つめる。


…ベッドに入って、寝て、夢を見て…………

夢?本当に夢だったの?

夢で片付けるなら、さっきの血痕はなに?

けれど、目覚めたらいつもの自分の部屋だったし、現実にいまここにいる…

混乱状態があまりにも長く続き、私の頭はパンク寸前だった。

カリッカリッ

突然聞こえた物音に、ビクッと体を震わせる。

曇りガラスの向こうに見える小さな影に、私はほっと胸を撫で下ろして、バスルームのドアを開けた。

『ジャスミン…どうしたの?』

ニャーと小さく鳴くと、艶やかな黒い長毛を揺らしながら、愛猫のジャスミンが入ってくる。

可愛らしい姿に、パニック寸前だった私は徐々に落ち着きを取り戻していった。

水晶のような綺麗なジャスミンの瞳を見つめる。

『考えるのやめよう…きっと、疲れてたんだ。』

ほてりきった体を冷ましながら、洗いたてのタオルで体をふいて、あの出来事自体を忘れしまおうと顔を上げた。



――みつけたぁ。

『え…?』

思わず、足元に絡み付いて甘えるジャスミンに目をやる。

いや、猫は喋らないよね???

鎮まっていた私の心臓が、またドクドクと激しく脈をうつ。

異様な視線を感じ、ジャスミンから視線を鏡に移した私は、自分の目を疑った。

鏡に映る、大きくて光る鋭い目…



ジャスミンのけたたましく威嚇する声を、遠退く意識の中で聞きながら、私はまた暗闇に引きずり込まれた。
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