神様のきまぐれ
融解
口の中が苦い。
タバコの苦味と・・・
誰かを・・ヒナコを
傷つけてるという
良心の呵責からくる
苦味・・・。
チューニングを始めて直ぐに、
志央がスタジオ入って来た。
「あん?
早いじゃん、志央。
まだ時間あるだろ?」
いつも、ギリギリに
スタジオに入る奴なのに、
珍しい早入だ。
「人聞き悪いな、コウジさん。
これでもちゃんと、
発声練習はしてきてんだよ。
いつも。」
「あたりまえだろ。」
おまえ、仮にもプロだろ!?
いいかけた言葉を、
ぐっと我慢する。
「それよりさあ。」
志央が壁にもたれ立ち、
会話を続ける。
「コウジさん、
本当にいいの?」
はっ・・・?
「何が?」
突然何だよ?
「ヒナコいただいて。」
「はっ?!」
何でそうなるんだよ?!
「あ・・・。」
弦が切れた。
動揺した一瞬、
きつめに弦を巻きすぎた。
消耗してるとはいえ、
初歩的なミス・・・。
志央に動揺を悟られないよう、
自分自身に細心の注意を
払いつつ、予備の弦に
張替える。