endorphin
 ぎこちなく同じ室内に足を踏み入れる。伺うような視線に、俺はおとなしく質問の返事をすることにした。
「ごめん、クラシックは聴かないから……」
「そっかあ」
 眉尻を下げつつ彼女は笑う。少し考えてから、プリーツスカートを揺らして移動した。
 ピアノの前に置かれた背もたれのない椅子に腰をかける。
 そして俺の方を見上げ再び微笑んだ。
「じゃあ、これならどうかな」
 白と黒のコントラストの強い鍵盤に手を重ね、一呼吸置いてから彼女はゆったりとした動きでピアノを弾き始めた。楽器の演奏を聴く機会など音楽の授業程度しかない俺は、どうすればいいか分からず焦った。
 辺りを軽く見渡して、演奏する彼女の斜め前に位置する机に腰を下ろした。
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