endorphin
 彼女の背中を横目で見ながら、河本が口元を盛大にゆるめ俺を小突く。
「目があったときにちょっとでも笑ってくれたら儲けもん、じゃなかったのかよ」
「いや、うん……そう思ってたんだけど」
 けど。
 彼女は俺に接触を図った。
 昨日のこと、あの場限りの出来事と片付けるのではなく、それを持ち出して離れた席の俺にわざわざ話しかけてきた。
 この発想が大袈裟なものだとは思わない。話しかけられれば会話に交ざり、誘われれば着いていくというように、俺の認識が正しければ彼女の人付き合いは本当に受け身なものだった。
 そしてそれを裏付ける、クラスメートたちの驚いた顔。
 彼女がなにを考えているのかさっぱり分からない。ただ、悪い気分ではもちろんなかった。
「またね小野田くん、だってさ。笹原桂、お前しか見えてないって感じだったし。俺も笹原桂とお近づきになりてえー」
 冷やかす河本に返事はせず、俺は昨日今日の彼女の言動を思い返していた。
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