endorphin
 また、桂の噂を聞きつけた上の学年の女子数人が教室を訪れたときのこと。
 目の回りを真っ黒に囲った濃い化粧。ぐるぐるに巻いた髪が胸元で揺れている。
「うわスゲー、マジじゃん! ババアの家にある人形みたいだよ!」
 言い方に棘があるのは僻みからくるものらしい。様子を眺めていたクラスメートたちがカチンときた様子で顔をしかめたのは、仲間意識というよりかは、自分たちの密かな自慢の種にケチをつけられた苛立ちのようであった。
 当の桂は嫌な顔をするでもなく、かと言ってニヤニヤしながら自分を見つめるどこぞの先輩に臆するでもなく、まっすぐに視線を返している。
 けれどもそのうち溜め息混じりに眉を寄せ、ひょいと肩を持ち上げて言った。
「臭いです」
「……は?」
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