endorphin
 隣にさえ居れたらそれで、なんていじらしい気持ちではない。現状に甘んじてそこにある日常を楽しんでいるだけ。
「別にお前がそれでいいなら構わないんだけどさ」
 俺の代わりに溜め息を落としてくれたお節介な河本が、頭を掻きつつ視線だけをよこす。その目が思いがけず真剣なものだったから、笑って誤魔化すことができなかった。
「自分が笹原さんの隣にいることがこれからも当たり前にあるなんてこと、思わない方がいいと思うぞ」
 笹原さんが誰を選ぶかなんて、そんなの笹原さんしか分からないんだから。
 河本のまっすぐな意見が胸を突いて呼吸が苦しくなった。腰まで浸かっていた温度の低い湯が、どこからかゆるゆると抜け出していくのを感じた。

 
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