endorphin
 学校に到着し教室に入った瞬間、全身が凍りつくのを感じた。美しい黒髪を携えた美少女が、教室の中心でクラスメートたちと談笑しているのだ。
 どうして桂が俺より先に登校してんだよ。思いがけない事態に、動揺はますます大きくなる。
 入り口で立ち尽くす俺に、必然のように桂が目を向ける。
 そして、やはりいままでとなんら変わらない無邪気な笑みをよこした。
「おはよう、清貴。今日は遅いのね」
 俺を見つけた桂が迷うことなく歩み寄ってくる。ごく日常的な光景。昨日の夕方起こったことなど誰も知るはずがない。
 平穏な朝の教室で、俺だけが言い様のない焦りを抱えていた。
「え、そ、そうか? 桂が早いんじゃなくて?」
「わたしは普段通りよ。時計を見てみたら?」
 言われるがままに視線を上げる。針が指しているのはいつもよりずっと遅い時刻で、自分が朝随分と意識を持っていかれていたことが手にとるように分かる。平然と笑顔を浮かべる、目の前の美少女に。
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