僕らは、何も知らない
気分的に寝台に飛び込んでみた。部活の疲れが冷たい布団に吸い取られていく。
五分くらいごろごろして、やっと寝台から降りて椅子に座った。制鞄から理科の教科書とノートを出して、適当に習ったことをペンでかりかり書いていく。
「ごはんですよ!」
ドアの向こうから高い声がした。
「……はいは……い?」
母さんの声じゃねえな。
兄弟なんていないし、父さんはまだ帰ってきてないだろうし。
不審に思ってドアを開ける。
長身とオレンジの短髪が目立つ男性が立っていた。
思いっきりドアを閉めた。
「わっ、と、危ないじゃなーい! 天ちゃんたら悪い子ね〜ん」
「なぜ葵西さんがここにいる!」
部屋の隅っこにしゃがんでオカマに怯える俺はかなりのチキンだ。チキチキボーンだ。
「いやんね、あたしがお母様に料理を教わろうと思って来たのよー。観念して出ていらっしゃい」
「……ちくしょー」
「あ゙?」
「何でもないっす」
もそもそ床を這いながらドアに近付くと、葵西さんが開けて俺は頭を打った。
「いてっ」
「あら、なんで立ってないのよ〜、お姉さんの所為じゃないわよ」
「そうっすね、葵西さんはお姉さんなんかじゃ……うわっ、ちょ、階段でヘッドロックは危ないから!」