僕らは、何も知らない
002//滔々

 「班ノート書いてきたぞー」

 五月二十五日、晴れ。
朝から昴が大袈裟に班ノートを見せびらかした。

 「ん、見せてみ、火星人」
「はいよ、元遊び人」

無駄に皮肉を言い合って、ノートを受け渡す。その場にいた雛森と唯谷は、「元遊び人」のところでよく解らないという顔をしていた。あの時は二人共居なかったからな。

 一行目から馬鹿でかい字で自己紹介が書かれていた。前の班と同じ内容だろうと、そこを飛ばす。
下の方に『天へ』という謎の文章を発見した。

『天へ 良いこと教えてやる。裏表紙の内側に、かなり面白いの見付けたぞ〜』
「……?」
一旦ノートを閉じて、裏表紙を捲る。
その隅には、女子が書いたであろう丸っこい小さい字で綴られた文章があった。

「『抱負★来年のクラス替えまでに、絶対神崎くんに告白する!』……」

な。
何だこれは。

「すげえロマンチックで遠回しで匿名希望な告白だな……」
「な、おもしれーよな?」
にやにや笑う昴。
これ見た奴全員吃驚だろ。心臓の敵だこいつ。

「ああ……傑作だ」
「なになに、どうしたの? かな?」
「あ、二人共見ろよこれ──」
「わっ、見んな!」

焦って、ノートを受け取ってしまった雛森の手元に腕を伸ばす。
反射的にもう片方の手を、胸辺りにに置いてしまった。
『辺りに』というか、ほぼストライク。

「あ」
「…………」
「…………」
昴と唯谷は固まった。
勿論俺と雛森もお互い真っ赤な顔で固まっている。

 「な、なっ……」
「……、雛森、落ち着いて」


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