僕らは、何も知らない
 「きやああああ!!」

雛森の叫び声が教室に響く。
ついでに俺が蹴飛ばされた鈍い効果音も響いた。

昴と唯谷の視線が一気にこちらへ集中している。

 「っ……、神崎くんのばか!!」
うあ。
言われてしまった。

「…………、いやうん、まあ、さっきのは天が悪かったな」
昴の言葉にはフォローの欠片も持ち合わせていなかった。
ぐさっときたぜ。

「でも、確かに神崎くんも不注意があったけど、不慮の事故だし……まあ蹴飛ばした事もあるし、天ちゃんも神崎くんも、ちゃんと謝ろうよ」

誰かさんとは違って、冷静に話を纏めてくれる唯谷だった。感謝する。

 「え、えっと──」
「──あの……」
二人共何か言い出そうとした瞬間、チャイムが鳴った。
時間ってのは、ことくごとく空気を読まない奴だなあと思う。

席に戻っていく連中に流され、謝罪は有耶無耶になってしまった。

    ◆  ◆  ◆

 一時間目数学、終了。
 雛森とは殆ど何も喋ってない。
「怪我無かったよね」と訊かれたぐらいで、それでも目を合わせてくれなかった。
畜生、くそ気まずい。

 「えーっ、お前らまだ仲直ってねえのかよ」
休み時間にも関わらず、小声で昴が言ってきた。

「あー……うん」
「珍しいな、天にしては。驚き桃の木レレレのおじさんだよ」
「おじさんを巻き込むな」
「まあ何がなんでも、今日中に謝っとけよ。援護射殺してやっからよ」
「俺を殺すな」

これでも一応昴は、いつもよりテンションが低めの俺を慰めてくれているんだろう。

「ありがとよ」
「いやん照れる」

うーん。
頑張らねば。



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