僕らは、何も知らない
◆ ◆ ◆
「……んー」
とは言ったものの、やはり話しかけづらい。
只今二時間目、美術。
美術室は昼御飯の時と同様に、班全員が向かい合って一つの机で作業する。
ので。
目の前に雛森が座っている。
「先生、俺トイレ行ってくらあー」
元気良く昴が席を立ち、美術室を出ていった。
なるほど、援護射撃か。
今八班の机を囲んでいるのは、俺、雛森、唯谷の三人。
「あ、私も行ってきます!」
昴に次いで美術室を出たのは。
雛森だった。
「…………」
昴の『トイレを口実に俺が出ていった後に空気を読んだ唯谷さんも席を立って天と雛森を二人きりにしよう作戦』は失敗した。
「えっと、次の時間、頑張って」
唯谷は粗方事情を悟ったようだ、応援なんてしてくれた。
「ん……頑張る」
三十分後。
「ありがとうございましたー」
美術が終わって、昴と廊下を歩く。
「うはは、失敗したな」
「アドリブだから当たり前だけどな」
「まーまーまー。次の時間地理だけど、ファイトだぜ」
「おうよ」
教室に先生が入ってきて、二度目の挑戦開始、三時間目の地理。
しかし、やはり数学の時間と同じで、二人黙ってノートをとる。
「……はい、じゃあ地図帳の十三ページ開いてー」
そう先生が言うと、雛森が固まった。
「…………」
「?」
「地図帳忘れたっ……」
ああ、なるほど。
チャンスかもしれない。
「ん、ほれ」
机と机の間に、地図帳の背を挟む。
「え……?」
「忘れたんだろ?」
「えっと、うん」
「遠慮すんな」
「あ、ありがと……」
残念ながら、その時間の会話はこれで終わった。
◆ ◆ ◆
そして四時間目、技術。三度目の正直か、二度有ることは三度有るか。
技術は機械を使うので、ほぼ全員が室内を歩き回ったりする。
ので、ベルトサンダー(木材の角を丸くするあれ)の列に並んでいる、雛森の後ろをゲットした。