僕らは、何も知らない

 何分くらいかして、雛森の順番が来た。
なんとなく、木材を削るのを見つめていた。

すると、雛森の手が、刃と摩擦が起きる位の距離まで近付いた。

 「──危な……っ」
俺は咄嗟に、雛森の手首を掴んで引いた。

からーん、と床に木材が落ちたが、今はそんなこと気にできない。

 「怪我、無かったか?」
「え……あ。ちょっと擦りむいたけど、大丈夫だよ。ごめんね……ありがとう」

 「……雛森。ごめん」
「どっ、どぅえ?」

謝ると、目を丸くして驚かれた。それが間抜けな声だったので、俺はちょっと笑ってしまった。
まあ、礼を謝罪で返されたら拍子抜けするのは当たり前か。

 「いや、その、朝のこと」
「あっ、それは……私も」
雛森は俺に頭を下げた。

「蹴飛ばしてごめんなさい」
「や、雛森は謝らなくても──」
「でも暴力しちゃったもん」
「俺だって、女子に変なことしたし」
「神崎くんはわざとじゃないんでしょ?」
「それでもだ」
言い切ると、雛森はくすっと笑いだした。

「へへー、何かもうどっちでもいいや」
「じゃ、両方悪いってことで」

四時間目。
俺達はやっと和解した。


    ◆  ◆  ◆

 「俺様のお陰だよなー、うんうん」

昴は調子に乗っていた。

「まあお前の無駄な努力には感謝してる」
「ひでぇー」

 「……ありがとう」
そう言って微笑すると、昴の顔が紅潮した。
「え、ちょ、嘘だろ、男同士でそんな……俺には唯谷さんが」
「物騒な想像してんじゃねえ」

葵西さんの件もあるというに。
鳥肌がたってきた。






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