僕らは、何も知らない

    ◆  ◆  ◆

 昼休み。
俺は数学の先生にノートを渡しに職員室に行くと、唯谷も居た。

「あ、唯谷も用事か?」
「ええ。家庭科のプリント忘れちゃってて」
「そっか。俺も数学のノートで」
親友の好きな人と喋るのはなんかちょっと勇気がいるなと思いつつ、職員室の扉の逆側の窓に寄った。

「昴はどんな感じ?」
「空知君は優しいし、頼れる人で……仲良くさせてもらってる、かな」
「──そっか」
これ昴が聞いたら狂喜乱舞するだろうな。
「天ちゃんと神崎君は?」

「え? ああ、雛森はすっげー面白い奴だし、すぐに馴染めたよ」

「ふふっ──天ちゃん、いい子だよね」

唯谷は窓の外の中庭を、遠い目で眺めた。

 「羨ましい──」

ぽつ──と、一滴の雫が窓を叩いた。
空が灰色の雲で覆われ、気付くと中庭に出ている生徒は誰も居なかった。
また、ぽつ、ぽつ──と音を立て、雨の雫が窓を濡らしていった。
瞬きもしないうちに、中庭のコンクリートの色が雨粒で濃く染色されていく。

「教室、戻ろうか」
唯谷は頷いて、ゆっくり足を進め始めた。



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