僕らは、何も知らない
「わ、神崎くんだねっ」
元気な声でにっこりされた。
「あー……うん」
あれ。
普通の子──だよな。
それにしちゃあ口調、変じゃね?
いや、気のせいだ、聞き間違いだ。
「お隣よろしくだよ。へへ、名前の漢字が一緒だったから、ちょっとお喋りしてみたかったんだねー」
またにっこり笑って、雛森はペンケースの上に頭を置いた。枕代わりのようだ。
うーん。
意外に不思議ちゃんらしかった。
何かこの子、危なすぎる。
深呼吸して、ときめき的な激しい動悸を抑え、無駄に余裕ぶって椅子に座った。俺はこういう子に弱かったのか?
……いやいやいや。
「はう!」
変な声を出して、ばっと顔を上げる雛森。今度は何だ。
「唯谷さん、同じ班だったんだねっ」
ああ、唯谷か。
俺の前の席に座っている昴を見ると、紅潮している自分の頬を両手で覆っていた。その様子からして──本気で唯谷に惚れているらしかった。
乙女かお前は。
オトメンと呼んでやる。
「ええ、宜しくね」
と、唯谷は雛森に応えた。笑顔だったけど──無理矢理笑っているように見えた。
どうなんだろうか、俺にはそう見えるだけなのかもしれないし。
「えへー」
またよく分からない声を出して笑った。
「何だよその笑みは」
今日初めてまともに喋ったというのに、俺は突っ込んでみた。
我ながら気が早い。よく言えば、すぐに人と仲良くできるって事なんだろう。馴れ馴れしいのは欠点ではないと思い始めたこの頃。
ポジティブに生きようじゃないか人類達よ。
「やっぱり、綺麗だなあっと」
「アイドル視?」
「うーん、ちょっと違うよ。友達になりたいなーって──あ、美人だからとか、そういう理由では無いのだよワトソン君っ!」
「やっぱ可愛いな、お前」
……。
…………。
うおあ!
何か言っちゃったって俺今日初めてまともに喋った奴にこんなこと言っちゃったよ俺! 穴があったら飛び込みたい! 無いなら掘る!
「うふふー。予想通り、東条くんと喋ってると楽しいねー」
また、雛森は笑う。
俺は苦笑いする。
「俺は雛森が不思議ちゃんだとは、予想外だったけどな」
俺が最初に雛森天と交わした会話は、こんな感じだった。