たからもの。
「だったら伴奏してやるよ」
神崎はすっと立ち上がってピアノの前に立つと、凄く綺麗に、滑らかに曲を弾いた。
みんながびっくりしていると、いつの間にか弾き終えていて。
「これでいいんだろ?」
面倒くさそうに言う神崎。
ボーッとしていた速水はハッとしたように
「え、えぇ。とても綺麗だったわよ」
と言った。
アイツは、神崎は微かに、すっごくよく見てないとわからないくらい微かにだけど、
…口角をあげて、ほんの少し笑った。
なんだかわかんないけどその時、今まで経験したことのないような不思議な気持ちになった。
そしてアイツの笑った顔は、
ずっと私の心の中に残っていた。