たからもの。
素顔 ‐龍‐
凄く久しぶりだった。
ピアノを弾いたのは。
ただ単に歌うのが面倒だったから弾いただけだったけど。
前に弾いたのは確か、
中1ぐらいの時。
あの頃はまだ、母親も生きてたな…。
父親は優等生の兄ばかりを可愛がってた。
俺には目もくれないで。
周りの奴らは全員、兄の伸の事ばっかだ。
そんな中でただ一人、俺の事を見てくれてたのが母親だった。
懐かしいな…
しばらくボーッとしてた俺の耳に、香宮とかいう女の声が聞こえてきた。
「神崎君!!
授業…終わったよ?」
「……あぁ」
そっけなく返事を返す。
あんまり他人と関わりたくない。
深く関わればどうせ…
どうせ自分が傷つくだけだ。