馬鹿が飛んだ日








今日も、天気は晴れだった。降水確率は0パーセントで、紫外線はきっとカンカン。稲葉の葬式があるっていうのに、空は泣く気配を見せない。これじゃ通夜っぽい雰囲気なんて出ないんじゃないかと思ってしまう。

「みんな、今日はタクミの為にどうもありがとね」

 稲葉家の門をくぐってすぐ、稲葉の母親らしき人が俺達を見てそう言った。ずいぶん泣いたのだろう、目は赤いし肌の調子も悪い。でも、綺麗な人だと思う。もしかしたら、まだ若いのかもしれない。ほんの少しだけ稲葉の面影を持ったその人は、俺たちに挨拶をするとすぐに別の人たちの所に行ってしまった。

 告別式が始まると、クラス代表の女子が稲葉への手紙を読んだ。昨日、教室ですすり泣いていたうちの一人だ。手紙の内容は、クラスみんなあなたのことが大好きでした、とか、楽しそうだったのに何故、だとかそんな感じだった。少しも、本当のことは書かれていない気がする。かすってすらない。稲葉は、みんなに好かれるようなヤツじゃなかったし、特に嫌われるようなヤツでもなかった。楽しそうだと感じたことはないし、何故死んだの、とも思わない。不謹慎な話、「とうとうか」というのが本音だ。

 でも、この手紙はこの場にふさわしいと思う。先ほど挨拶に来ていた母親はそれを聞いて泣き崩れたし、会場が湿っぽくなった、俺は、少し稲葉に申し訳ないのだけれど、始終葬式の雰囲気のことばかりを気にしていた。もっと誰か泣かないかな、だとか、偶然にも稲葉の遺書が見つかってそれが読まれたりしないか、とか。
演出と言ったら聞こえが悪いが、そういったドラマ性を期待していたのだ。
 
 だけど俺の考えていたことには少しもならなくて、淡々と葬式は終わった。不気味なくらいに明るい太陽の光を浴びながら、葬式が幕を閉じる。

 告別式が終わると、俺たちは学校へ戻った。今日は一日授業はなくて、稲葉への弔い式
の一日となる。



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