馬鹿が飛んだ日


 我ながら、声が小さかったと思う。だけど、俺の声はきちんと届いていたようで、佐久本は眉間にしわを寄せて「は?」と言った。だけど、自分でも少し思うものがあったのか、すぐに顔の力を抜いて、口を閉じた。周りで騒いでた奴らも、みんな同じように静かになった。再び、教室が沈黙の世界に戻った。

 しばらくすると、担任が教室にやってきて、「体育館に移動です」と言った。みんなは機敏に移動する。佐久本も静かに立ち上がって、他の男子と一緒に移動し始めた。俺も、雄太とふたりで教室を出た。

 体育館につくと、事情をよく知らない他のクラスの人たち、他学年の生徒達が稲葉のことについて騒いでいた。きっと、どいつも稲葉の顔なんてしらないんだろうな、とぼんやり思う。

 俺達が移動してくると、生徒指導の先生が全校生徒を整列させた。みんながキレイに並んで静かになると、校長が前に出てきた。この人が校長だとすると、やはりあの時稲葉の死を知らせに来たのは教頭だったのだろう。校長は、「今回は本当に心からお悔やみ」だとか、「ショックでならない」だとか話し始めた。そして、遺書等が無かったことから、事故死ではないかという方向にあるという話と、学校は稲葉を自ら死ぬように追い込むような環境ではなかったということを懸命に説明する。実際にそうなのかもしれないけど、校長の話はどこか言い訳のように聞こえた。稲葉の死に関して、わたくしたちは悪くありません、と主張しているだけの弔い式に感じる。

 校長の話が終わると、全校生徒で一斉に黙祷が始まった。時間は一分間で、先生たちはみんな下を向きながら目を閉じていた。でも、生徒で真剣に黙祷をしている人は少ない。クラスでは、葬式で代表として稲葉への手紙を読んだ女子と、その友達くらいしか目を閉じていない。俺も、目は開けていた。

そんな風に、弔い式も淡々と終わった。

< 18 / 26 >

この作品をシェア

pagetop