馬鹿が飛んだ日

 教室では、もう昨日までの漠然とした空気が嘘みたいにいつもの風景が広がっていた。授業も、明日からは普通にあると担任が言っていた。昔、読書感想文を書くために読まされた本に書いてあった通りだ、と思う。

『世界は、誰かが死んでも、変らず回り続ける。それが親友の死でも、身近な人の死でも、回り続ける』

 その時は何をやるせないことを言ってるんだ、と思ったけど、今になってわかった。それって、普通のことなんだ。でも、当たり前だってわかってはいても、それはやっぱり切ない。



家に帰ると、亜紀がおかえり!と玄関で出迎えてくれた。亜紀はいつも玄関で俺や兄ちゃんが帰ってくるのを待っている。そして帰ってくるなり遊んで!と迫られる。学校やなんやで疲れてるのに、ついつい遊んであげてしまうのは、年の離れた妹が俺や兄ちゃんには可愛くてしかたないからだろう。

「隼人兄ちゃん。本読んで~」

亜紀は、学校で疲れている俺のことなんてお構いなしに、背中に飛び乗ってきた。手に何か絵本を持っているために、ゴツゴツと当たって痛い。

「わかった。読んであげるからリビングで待ってて」

 俺は亜紀を背中からはがし、制服を脱ぎに部屋に向かった。亜紀はわかった!と走りながらリビングへ走っていく。
 部屋に入ると、俺は普段着に着替えて少し横になった。学校は、いつもと比べると比較的楽だった。授業は無いし、いつもうるさい生徒指導も静かだから。でも、いつもより疲れる。いろいろと大変だな、と思った。
 俺はまた亜紀が催促しに来たら大変だ、と思いすぐにリビングへ向かった。そこでは、亜紀がはやくはやく!とソファーで飛び跳ねている。まったく無邪気だな、とため息をついてソファーに腰をかける。


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