馬鹿が飛んだ日
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本当に突然のある日から、馬鹿が公園に来なくなった。
あいつがいつも占領してたブランコで遊ぶのは近所のチビだし、ブランコの前の土には着地の跡もついていない。それどころか、青々とした雑草が空に向かって生えている有り様だ。
季節はまだ夏なのに。なのにあの馬鹿は来ない。馬鹿過ぎて季節もわからなくなったのかも、なんていう笑えないことを考えてみる。こんなバカげた話しでも、あの馬鹿が相手なら有り得すぎるんだよ。
蝉がミンミンうるさい。まぁそりゃあ夏だしな。どっかであの馬鹿にも、この声が届いてりゃいいと思う。なぁ馬鹿、夏だとイカロスの翼が溶けちゃうって、お前が言ったんじゃねえか。
空は相変わらず遠い。
俺は、公園の遊具の中じゃ一番高いジャングルジムに登ってみた。いとも簡単に天辺までたどり着いたとき、あまりの物足りなさに俺はむなしくなった。小さいころ登ったときには、もっと高く感じたのに。「世界は俺のものだー」とまで思えたのに。今じゃなんだ。低いんだよ。届かねぇ。こんなんじゃあいつのところまでは届かねぇよ。
俺はそのまま、ジャングルジムをつかむ手のひらの力を抜いてみた。案の定、地面に落ちていく愚か者。すごく痛い。でも、死んじまうような気はしなかった。むしろ、これくらいの衝撃で死ぬのは無理だと確信する。
めげずに俺は、ブランコからも跳んでみた。もちろん、馬鹿のように目をつむりながら。でもやっぱり、空を飛んでいるような気にはならない。その後の着地にも失敗した。
顔から落ちて、土がついて、情けない。
そういえば、あの馬鹿は最後にあった日、俺の名前を訊こうとしてたな。最初に会ったときにも教えたのに、なんであいつはあんなに馬鹿なんだよ。