馬鹿が飛んだ日

「テル」




 あの日、俺は言った。俺の名前はテルというのだ、と。
たしか、それを聞いて馬鹿はすぐに「てるって、輝くって書くの?」と訊いてきた。俺はそーだよ、と素っ気なく頷いた。そのときはまだあいつが馬鹿だってことを知らなかったから、あいつがすぐに脳内で名前を漢字変換できたことに驚いたりはしなかった。今思えば相当の衝撃だ。信じられない。

 俺は馬鹿のことを思い出しながら、もう一度だけブランコから跳んでみることにした。
今度は、いつもあいつが座ってた方のブランコに乗る。さっきのよりも低い。これは結構跳ぶぞ、と俺はらしくないことを考えて腕を構える。

その時、いつも俺が座ってる方のブランコの板に、何か書かれているのを見つけた。汚い字。その字はあいつの馬鹿さを物語っていた。




1/7

 僕の中で輝いてた君へ
君は僕の太陽でした。初めて
君に出会ったのは冬でしたが、
君があまりに眩しくて暖かいから、
まるで夏のようでした
だから、もうちょっと
空を飛ぶのは待とうと思いました

イカロスの翼は、太陽の前では脆いから


 1/7っていう数字が気になった俺は、公園中を歩き回ってみた。そしたら公園のいたるところに、あいつの落書きを見付けた。あいつらしい遺書だった。




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