馬鹿が飛んだ日

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 冬に太陽が出ないなら
僕は冬に飛びたかったです
だけど僕の太陽は
冬でも変わらず暖かかった

イカロスが堕ちたのは
みんなの警告を無視して
太陽に近づきすぎたからです
僕はイカロスだから
これ以上太陽に近づいては
いけないのです

 あの馬鹿は、公共の公園にこんなに落書きしやがって。水道にまで書いてあった。





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 shineへ
僕は飛びます

 最後だと思われる文は、あいつが座る方のブランコの板に書かれていた。どうやらあいつは、英語変換もできるらしい。飛びます、なんて今更な気がした。ていうかあいつ俺の名前覚えてるんじゃねえか。やるせねぇ。



 まったく。俺は自分の名前を英語にされんの嫌いなんだよ。ローマ字読みしたら 〝shi ne(死 ね)〟 になるじゃねえか。

あ、だからあの馬鹿でもこの単語を覚えてたのかもしれない。

きっとこれを書いてるときあいつは、空ばっか見てたんだろうな。公園中駆け回って。

それがあいつの、あの馬鹿の癖だから。



それになんてったって、あいつは自殺志願者だからな。






 いや、もう志願者じゃない。あいつは自殺者だ。本当に空へ飛んじまった。もう錯覚でも、勘違いでも妄想でもない。



 俺の学校の後輩で、いつも制服を着てた、随時妄想中の自称イカロス。


「死にたい」が口癖で、冬に死にたがった男。





結局イカロスは俺の話しを聞いたためしもなく、制服以外の服では登場しないまま、冬じゃなく夏に死んじまった。



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