パラダイス ビリーバー
「ん、腕あげたねぇ、美好。オムレツ、ふわふわ。塩加減も絶妙」
うっとりと目を閉じている先生のマグカップに、濃い目に落としたコーヒーと、牛乳を半分ずつ注ぎながら、私は思わず頬が緩んだ。
「うん、料理って実験みたいで楽しい。卵ってすごいよね、いろんな料理になるし。やってみたいの、たくさんあるんだ」
「ふふ、鶏も飼おうか」
「うっ、ん?」

突然の提案に戸惑っていると、先生は、嘘、と笑った。

「猫もいるしねぇ。第一、美好は卵がヒヨコになるんじゃないかと思って、親鶏から取れなさそう」
「……オスと交尾しないとヒヨコにならないことくらいは知ってるよ」

少し不満に思って横を向くと、先生は笑いをこらえながら、ゴメン、と謝った。

「美好は優しい子だから、ってこと。命をいただく事の意味もちゃんと理解してる。感じやすくて、頭がいいからね。だから、これまでと変わらず、パック入りの卵を買いましょう」

私の手から、マグカップを取ると、先生はにっこり笑った。
むぅ、と私が唇を尖らせると、それをつまんで、また笑った。

「そんな顔しない。全員の朝ごはんが済んだら、髪を結ってあげるから、ね?」

その一言で、私の機嫌は、ちょっとお手軽過ぎるほどに治ってしまう。
私は、先生に髪を結ってもらうのが大好きなのだ。
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