咲いても、枯れても1~サクラ色~



私に語りかける拓の顔は、生き生きとしている。




少し、自慢気に。





それを見て、柔らかく微笑む。


こういう拓も、好き。





そんな私にお構い無しに、拓は話を続ける。





『こういう長所を持ってたから染井吉野は明治くらいから、全国に植えられて普及したんだよ』




長所。





確かに拓の話を聞いてると、染井吉野にはたくさんの長所があるわ。




だからこそ、一番有名。





最早、特別な桜ではなく、馴染みきった桜。




けれどどこか、その桜に惹かれる。






『俺は、染井吉野が一番好きなんだ』





目の前にある染井吉野が、風に乗って拓の手元に散る。




淡い、桜。





その桜と拓が重なって見える。


どことなく、儚くて。





消えてしまわないように、拓の手をギュッと握る。




その手からは、確かに熱を感じる。



< 273 / 279 >

この作品をシェア

pagetop