ペアリングを外して

 抱いている間、一度だけ三村をこう呼んだ。

「菜月」

 そう呼んでみたかった。

 息を荒げていた三村が気づいたかどうかはわからない。

 互いに苗字で呼び合うことで距離感を保っている気がしていた。

 名前で呼んでみたことによって、もう少しだけ近づければ……という、俺の勝手なあがき。

 いつか三村も俺のことを「幸雄」と呼ぶことがあるだろうか。




「ねえ、小出の彼女って、どんな人?」

 ベッドで余韻にひたっている時、三村は小さな声でそう聞いてきた。

 まったく、女はよくわからない。

 俺は三村の彼氏のことなんて、何一つ知りたくない。

 自分が劣っているなんて思いたくないし。

「難しい質問だな。まあ、三村とは全然違うタイプだよ。女の子って感じ」

 俺の答えに三村は「マジで?」と笑い出す。

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