ペアリングを外して

「あのね、記憶違いだったら申し訳ないんだけど……」

「うん」

「今日って小出の誕生日だよね?」

「……うん!」

 顔が緩む。

 胸が弾む。

「おめでとう。って、それだけなの」

 それだけで十分です、姉御。

「ありがとう。覚えててくれたんだ」

「うん。十年前の記憶だから、間違ってたらどうしようって思ってたの」

 十年前から知っていたのか。

 何とも言えない嬉しさと照れくささで、今の緩みまくった顔なんて会社の人間には見せられないと思った。

「合ってるよ。メールでも良かったのに」

「うん、迷ったんだけど……声、聞きたかったから」

 俺だって聞きたかった。

 愛されている気がして、完全に舞い上がっている。

「あのさ、俺……声だけじゃ足りない」

「え?」

「顔を見たい。っていうより、触りたい」

< 45 / 109 >

この作品をシェア

pagetop