ペアリングを外して

「それにしても、あんたさぁ」

 急に湯本の声のトーンが落ちた。

「バレなかったの? 菜月ちゃんのことは」

 背筋が凍る。

 なぜ湯本がそれを知っているのか……。

「は?」

「あたしが気付いてないと思ってんの?」

「何を?」

「夏、みんなで集まった時。あんた菜月ちゃんと何かあったでしょ?」

「何言ってんだよ。あるわけないだろ」

 白を切る俺を、湯本は責めるように笑った。

「あんたが戻ってきた時、いい匂いしたもん」

「いい匂い?」

「そ。石鹸みたいないい匂い。シャワー、浴びたんじゃないのぉ?」

 言い訳できない俺は、黙秘した。

 凝った背筋だけがピンと張っている。

「今でも続けてるかは知らないけど、火遊びもほどほどにね」

「気のせいだろ……」

 力ない俺の言葉は、情けなく渋谷の街にかき消された。

「ま、今日は彼女のために何も言わないでおいてあげる」

< 65 / 109 >

この作品をシェア

pagetop