ペアリングを外して
「それにしても、あんたさぁ」
急に湯本の声のトーンが落ちた。
「バレなかったの? 菜月ちゃんのことは」
背筋が凍る。
なぜ湯本がそれを知っているのか……。
「は?」
「あたしが気付いてないと思ってんの?」
「何を?」
「夏、みんなで集まった時。あんた菜月ちゃんと何かあったでしょ?」
「何言ってんだよ。あるわけないだろ」
白を切る俺を、湯本は責めるように笑った。
「あんたが戻ってきた時、いい匂いしたもん」
「いい匂い?」
「そ。石鹸みたいないい匂い。シャワー、浴びたんじゃないのぉ?」
言い訳できない俺は、黙秘した。
凝った背筋だけがピンと張っている。
「今でも続けてるかは知らないけど、火遊びもほどほどにね」
「気のせいだろ……」
力ない俺の言葉は、情けなく渋谷の街にかき消された。
「ま、今日は彼女のために何も言わないでおいてあげる」