ペアリングを外して
ディスプレイの「三村菜月」の文字を見た俺の鼓動は爆発的に上がった。
この時、定時は過ぎていたがまだ少し仕事が残っていたため会社に残っていた。
震える携帯を握り締め、社内を疾走。
それを部長に咎められながらも、軽くすみませんと謝罪して非常階段の踊り場へ駆け込んだ。
通話ボタンを押そうとした瞬間、電話が鳴り止む。
荒い息のまま、慌てて折り返す。
彼女はワンコール以内に出た。
「もしもし、俺っ!」
もっと余裕を持つことはできなかったのだろうか。
我ながらカッコ悪い。
一方で三村の声は非常に落ち着いていた。
「仕事、お疲れ様。なんか、忙しそうだね。大丈夫だった?」
お前だったら、いつでも大丈夫。
なんて、少し前にも思った気がする。
「全然平気」
「嘘ばっかり。息、切れてんじゃん」
三村はそう言って笑った。